憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「でも、あれだよな」
酒に弱い千秋は、既にほんのりと顔を赤く染めている。
「なあに?」
対してあたしと言えば、どんなに飲んでもそれが顔に出ることはない。だから、いつの間にかQSでも酒が強いという定評がくっついてしまった程だ。表に出ないだけで、酔っているのにはかわらないのに。
顔を赤くして、男の子に心配される可愛い系女子に比べて、まったくなんて損な体質なんだろう。
千秋は、含み笑いをしながらあたしを見つめる。
「俺、真知に彼氏できたら、寂しいと思うんだろうな。絶対」
心を潰すのに、それは充分な言葉。
その言葉に何も返せず、あたしは黙秘権を行使する。飲み干したビールの缶を、千秋を潰す代わりにベコッと潰した。熱くなった体を冷ますために部屋の窓を開ける。
空は澄んで、真ん丸い月が昇っていた。
あたしの横に千秋が並んで、一緒に空を見上げた。
(……ほんと、残酷だなあ)
「え、何?聞こえなかった」
「……なんでもないよ」
そっと、月を見る振りをして千秋の横顔を盗み見る。
綺麗な横顔と、酔ったように瞬く星がそこにあった。