憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

尚は、凄い。

あたしは心底、そう思う。
千秋は生来、人懐こくて誰からも好かれるような奴だけど、逆に千秋が誰かを特別好きになったところを、あまり見た事がなかった。

友人関係は広く浅く。
女関係はいつも受身。

だからこそ、こんなにも千秋が人を求めるなんて驚きだ。

尚も、純子も。千秋にとってはようやく見つけた特別な存在。
だからこそ手放したくないし、真実を知るのは怖い。

「俺、ほんとう、駄目だなあ」

ぎゅっとその拳を握り、押し黙ってしまった千秋に尚は溜息を吐いた。

「……千秋、大丈夫?」

そっと千秋の腕をさする。
千秋は小さくごめんと、もう一度呟いた。
< 294 / 533 >

この作品をシェア

pagetop