憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「ここが俺の家だから」

さらさらとメモ帳に住所を書いて、あたしへと渡す。

「何よ、一緒に行くんじゃないの?」

「俺、今日バイクだし」

「……あ、俺もそうだから後ろに真知乗せて……」

「千秋、今日ヘルメット二つ持ってないだろ。タクシーでこのマンションの名前言えば分かるから」

それじゃあね。
そういって、尚はすたすたとあたし達から離れていった。

手渡されたメモを見て、小さく驚く。
あたし達は、尚が一人暮らしをしているということ以外、何も知らない。
予想はしていたけれど、やっぱり尚はこの町には住んでいなかった。

「なあ、ヒサって何者?」

「……知らない」

「タワーマンションの47階って、おかしいだろ」

千秋がぽつりと呟いた。
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