憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「でもさ。ヒサは、純子を追い詰める為じゃなくて、俺の為に怒ってくれた」

「ああ、……本当に、そうだね」

尚は、チェスの駒を動かすように、手を進めていたに違いない。
リスクを冒して情報を得て、恐らく尚のことだから、あたしや千秋が気づかないうちに、それを上手に利用して純子を遠ざけることも考えたはずだ。

周囲の状況や相手の考えを読んで。
あの状況で、キングを追い詰める手は出来ていたはずなのに。

「ああ、だからあの時……」

尚の後を追って、言葉を交わしたときに感じた違和感。

"ぜんぶ滅茶苦茶になったな"
"こんなつもりじゃ、なかったんだけど"

尚は戸惑い混じりに、そう言っていた。
チェックメイトをあえて打たなかったその訳は、純子を信じようとした千秋の為。

あれはこういうことだったんだ。
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