憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「田丸にどやされたら、真知の所為だからな」
「ごめんってば」
不機嫌そうにそう言う千秋に、あたしは謝ることしか出来ない。
授業を告げる鐘が、廊下に響いた。早歩きで教室まで向かう。
そろりと、ドアを開けた。
「なんだ、まだ田丸来てないな」
「そうだね。よかった……」
既に、満席に近い教室。
通路をぬって、二つ並んだ空席を探す。
「千秋君、おはよう」
「はよ、千秋」
男女問わず、次々と声がかけられる千秋は、慣れた調子でにこにこしながら挨拶を返している。
まったく、愛想だけはいいんだから。あたしはといえば、どこかで愛想というものを忘れてきてしまったんじゃないかってくらいに仏頂面なんだろう。
鏡を見なくてもわかる。だって顔の筋肉が全く動かないんだもの。
「おはよう、千秋」
鈴の音が転がるようなこの声。
恐る恐る千秋を見上げる。
……やっぱり。