憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

ほんわり、千秋の表情に名前をつけるとしたらこれだ。
イメージとして述べるとすれば、ようやく訪れた春に喜々として草の合間からほんわり顔を出すタンポポ。

なんて嬉しそうなんだろう。わかりやすすぎる。

「真知もおはよ」

「……おはよ、純子」

う、眩しい。
あたしはその輝く笑顔を直視できずに思わず目を細める。どうやるんだ、どうしたらそんなに純粋な笑顔を振りまけるんだ!あたしに教えてください。

「真知、どうしたの?」

挙動不審なあたしに首を傾げながら、純子が千秋に訊ねる。千秋は、可哀想な人でも見るような目でこっちを見た挙句、肩を竦める。

「アングラな生き物だから、真知は。幼馴染の俺でも未だにその詳しい生態は把握出来なてないんだ」

とか、めちゃくちゃ腹立つことをぬかしやがりました。
純子の後ろの席が、二つ空いていたので座る。鞄から、ノートや筆箱を取り出していると、やたらと黄色い声が聞こえてくるのに気づく。

「どうしたのかな。更夜先輩でもいる?」

カリスマ更夜先輩が大学校内を歩くと、まさにこの現象が起きるのだ。

「ああ、それ、違う」

純子が振り返って、すぐ近くの席を指差す。
一人の男が、教科書をぺらぺらと捲っているのが視界に入った。
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