憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
すると、こともあろうに岡崎尚と目が合う。
どうせまた無視するんだろうな。
そう思って小さく睨むと、意外なことに岡崎尚はあたしに向かって笑いかけたではないか。
けれど、それは純子が浮かべるような類の笑顔ではなかった。ニヤリ、妖艶な笑みを浮かべて、口パクでこちらに何かを伝えようとしている。
あたしは、必死にその口の形を目を凝らして見た。
『ニヤけすぎ』
言い終わった瞬間、ヤツはあたしを小馬鹿にするように小さく舌を出した。
カーッと頭に血が昇る。
千秋の頭が肩に乗っていることなんてすっかり忘れて、ぐわっと岡崎尚に体ごと向き直った。
その反動で、肩に乗った頭が落ちる。
ゴン、という音が静かな教室に響き渡った。
「痛ってぇ」
千秋の恨みのこもった視線と、田丸の湿った視線とを、苦笑いしながらなんとか受け流そうと努力する。
あんたのせいだと岡崎尚を睨もうとするも、ヤツはなんと。それ以降こちらを見ようともしなかった。