憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「毎年、この花火を見ると夏が始まるなって実感するんだ。こうして運営に携わるのも今年で最後だしな。これくらいやっておきたいんだ」
「……更夜先輩……」
「お前たちには随分負担も掛けたしな。ほら、邪魔だからさっさとグラウンドにでもでて見てこいよ。もたもたしてると終わっちゃうぞ」
有無を言わさぬ様子で追い払われて、すっかり仕事を失った。
戸惑いながらも、結局は先輩達の好意に甘えることにして、グラウンド傍の土手に上がって腰掛けた。
そっと隣を見た。
嬉しそうに花火を見つめている千秋や、お好み焼きをつつく尚が一瞬の光に染まる。
「たーまやー」
どうしてだろう。
一瞬一瞬で空に咲く大輪を三人で見ることが出来て、なんだかとても幸せだと感じる。
せめて、この花火が消えるまで。
どうか少しでも、この時間がゆっくりと流れて欲しいと思った。