憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「ねえ、あしたは尚のマンションに泊めてあげなよ」

「無理」

「なんでよ!せっかく、尚に会いに来たんでしょ」

「……結衣の気が済んだところで家族のところへ送り届ける。真知には迷惑掛けて申し訳ないけど、少しだけ我侭に付き合ってくれる」

「それは構わないよ。けどさ、せめて明日一晩は」

「無理なんだよ」

声を上げるあたしを遮るように、尚はきっぱりと言った。
缶コーヒーを咽喉に流し込み、カツンとゴミ箱へと投げ捨てる。尚のカフェイン摂取量は半端ない。仕事の合間もしょっちゅう飲んでいるし、不眠を引き起こさないか心配だ。

「俺は、結衣の親から信用されていない」

さらりと言う言葉の意味が飲み込めず、あたしは何度か大きく瞬きをした。

「結衣とは、母親が違うから。本妻は、結衣の母親」

「え、それって」

戸惑いを隠せないあたしに、尚はそっと目を伏せる。"理解出来なくても、仕方ない"尚の表情は、そう言ってるように見える。
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