憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「けれど、そんなことはどうだっていい。契約、覚えているよね。いい?真知。結衣に何を言われても、俺の彼女は真知だ。嘘を吐くことに罪悪感なんて覚える必要はないから」

「……でも」

「真知は"そういうこと"を気にしそうだから、きちんと言っておきたかったんだ」

あの、真っ直ぐに尚を見る結衣ちゃんの瞳をみると、胸が痛むのは事実だ。つい、言ってしまいそうになる自分がいる。

―ほんとうは、つきあってないよ、なんて。

ふと、視線をあげれば、尚は漆黒の瞳でじっとあたしを見つめる。底深い闇色を映す。たまに見せる、尚の顔のひとつ。

「もし、結衣にこの"契約"を話すようなことをしたら、今度こそ俺は真知を許さない」

「ひ、尚」

尚は、小さく拳を握った。
冷静を装おうとしているけれど、それが隠しきれていない。こんな姿を、あたしは殆ど見たことがない。

「ねえ、尚。あんた……、何をするつもり?」

「……」

「少なくとも、結衣ちゃんは母親が違っていたって、尚のことを好きだって言ってたよ」
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