憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

随分と楽しそうに談笑している3人。
あたしは、目の前の光景をなかなか信じることが出来ず、目を何度もごしごしこすって確認する。


……誰だあいつ。
そこに、悪態をつく"あの"岡崎尚はいなかった。

どういうことだ。整った顔に、綺麗な笑みを薄く浮かべて、更夜先輩と紗雪先輩に愛想よく言葉を返している。

まさに王子。
うっかりその美麗な姿に魅入っていて、手に持った本が落ちそうになっているのに気づかなかった。少し前のめりになった瞬間、バサリと本が落下する。

「誰だ?」

更夜先輩達が、こっちを向く。
あたしは、慌てて本を拾って中へと入った。

「なんだ、真知か」

紗雪なんて可憐な名前を持つ癖に、まさしく女の本性をばっちりと持ち合わせた先輩が、興味なさ気にそう言った。
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