憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「ノックぐらいしてよ!女子の部屋なんだから!!」
「……おい、真知。なに結衣ちゃん苛めてるんだよ」
あたしの言葉をさらりと無視して、千秋が軽蔑の眼差しをあたしに向ける。
ゆっくりとしゃがんで、俯いている結衣ちゃんの頭にポンと手をのせた。17歳の女の子に対しての扱いじゃない気がするのだけれど、きっと千秋もひとりっ子だからいまいちよく分かっていないんだろう。
「どうした、結衣ちゃん。真知になんかされた?」
「だからしてないって!今、結衣ちゃんに尚に会いに行こうって話をしてたの」
言えば、千秋は心底驚いた様子で目を見開いた。
「なんだそれ!あれからまだ、ヒサに会ってないわけ!?もう3日だぜ」
「……いいの。千秋、怒らないで」
「よくねえよ。折角、兄貴に会うために妹がひとりで来たっていうのに」
落ち着かせようと千秋の腕を引く結衣ちゃんが、一瞬とても悲しそうな表情を浮かべた。さっき、尚に会いたいと言ったときと同じ顔。