憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「会いにいこうぜ?大丈夫だよ」
「行けない。会いたかったけど、やっぱり……尚を困らせたくないから」
「なんでだよ。俺だったら、嬉しいけどな。こんな可愛い妹が来たらさ」
結衣ちゃんはありがとうと微笑んだあと、スッと千秋を見上げる。
「ふつうだったら、嬉しいかもね。でも、私はふつうじゃないから」
「それって、どういう」
「気持ち悪いの、私って」
千秋は、まるで別人のように淡々と言葉を口にする結衣ちゃんに驚いている。結衣ちゃんが来た日、尚が言っていたことを思い出した。
―母親が違う。
そう、言っていた。
尚が頑なに拒もうとする複雑な関係性に、なにか繋がりがあるのだろうか。
「お願い、真知」
「なあに?」
「もう、一晩だけ泊めて。そうしたら、あしたは絶対に、ちゃんと家に帰るから」
今度はきちんと、"家に帰る"と言った結衣ちゃん。その必死そうな様子にあたしは自然と首を縦に振っていた。
安心したかのように、結衣ちゃんは一息ついてあたしのベッドに倒れこむ。
「結衣ちゃん!」
「疲れた……、ちょっと寝る」