憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
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相変わらず、きらきらと輝くエントランス。
インターホンを鳴らし、繋がったのを確認して二人でカメラを覗き込む。
「ひーさーしー君!遊びましょっ」
『……何の真似?』
ガチャリと通信は乱暴に切られたものの、ロックされていた自動ドアが開いたのを確認して中に入る。
エレベーターから出れば、そこには腕組みをした尚が小さく眉を寄せてあたし達を出迎えた。
「結衣は、もう実家に戻った?」
「今はまだ、あたしの家で寝てるよ。明日帰るとは言っていたけど。尚に会いたがってたよ」
「そう。まあいいや、入って」
なんともあっさりしたものだ。
千秋は、尚の結衣ちゃんに対する態度に不満があるようで、黙りこくったまま尚の背中を睨みつけている。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
尚は、涼しげな紺碧のグラスにグリーンティを注いで、ローテーブルに置いた。
ここまでバイクで熱風を切って走ってきたので、咽喉を落ちるそれは酷く心地良くて、思わず、ふうと息を漏らした。