憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「で、何?」
「何じゃないだろ!妹ほったらかして!!」
美味しそうにグラスに口をつけていた千秋が、ハッとした様子で声を上げた。
「なんで、千秋が怒るのさ」
「そんなの、結衣ちゃんが可哀想だからに決まってるだろ!?」
詰め寄る千秋に、無言のまま心底鬱陶しそうに視線を上げる。
「何の事情も知らないくせに、勝手なことばかり……」
「どうせ、なにも知らないよ。けれど本当は、知りたいさ。俺も……真知だって!!なんでなんて、今更聞くなよ!?そんなことを言われたら、今度こそ本気でヒサを殴るぜ」
苦し気に吐き出された言葉に、尚はびっくりしたように目を見開いた。
恥ずかしそうに尚から視線を外した千秋が、一歩だけ距離を置く。張り詰めていた空気が、不意に緩んだ気がした。
「……ごめん、千秋」
「いや、俺こそ。ごめんヒサ……、あの……、ついカッとなっちゃって」
「いい。ぜんぶ、千秋が正しい」