憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
岡崎尚は、黒曜石のような瞳をこちらに向ける。
「ああ、真知は尚と顔を合わせていたんだっけな」
「え!?」
合わせたというか、あの時は不法侵入者だと思い込んでいただけなんだけど。
「いえ、初対面ですが」
きっぱりと答える岡崎尚。
はあ!?あんたのせいでさっき田丸に呼び出しくらったんですけど。ぎりぎりと歯を噛み締めるあたしを、冷ややかに見る。
「そうだったのか?」
「はい。俺は、岡崎尚」
微笑みながらスッと手をあたしに伸ばす。
誰これ。別人なんですけど。
でも、ここであたしが態度を悪くしたら確実にこちらの分が悪くなる。渋々あたしはその手を握りながら、自己紹介をした。
「あたし……黒崎真知。大学2年」
「同じ学年なんだ、これからよろしく」
もしかして、今までの岡崎尚は幻だったのか。
夢でもみていたとか。だって、目の前の人、同一人物にはとてもじゃないが見えない。