憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「申し訳ございませんでした」
驚きのあまりそのまま立ち竦むほかなかった。
尚は、結衣ちゃんに接するのと同じように、決して冷たさを声音に含ませることもなく、淡々と謝った。
「おい、美香子……、もうよせ。尚の友達もいるじゃないか」
「だってアナタ!結衣ったら、また尚さんのところに行っていたのよ。それなのに、尚さんは尚さんで、あたし達に連絡も寄越さないで、仕舞いにはこんなことに!」
美香子、と呼ばれたのが、恐らく結衣ちゃんの母親なのだろう。彼女に比べて肉付きは良いが、顔立ちだけで見ればとてもよく似ている。
その、結衣ちゃんに似た顔で、憎悪に塗れた視線を尚へと向けた。
この家族は、なにか変だ。優しさが、少しも感じられない。
「すまないね、君達も。結衣は、元々身体があまり丈夫ではなくてね。度々、こういうことがあるんだよ」
「そう、なんですか」
「まったく、専属医のつく祖母の家に行くというから外泊を許可したというのに、まさか尚に会いに行っていたとはな」
呆れた様子で溜息をつき、そっと結衣ちゃんの頬を撫でた。
結衣ちゃんの瞼はきつく閉じられ、顔色は酷く青白い。ほんとうに、勝手に抜け出して良い体調なんかじゃなかったのだ。