憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「……なあ、ヒサ。お前ってさ、」
おずおずと、千秋が尚に声を掛ける。
尚は、それに笑みを浮かべたまま、ちいさく頷いた。
「あの人と俺は、血が繋がっていない。勿論、母親でもなんでもないよ」
「そうだったのか……」
「俺の母親が、昔の恋人だったというだけだ。昔から、遊びが過ぎるんだよ、あの男は」
尚が、千秋に向かって微笑んだ。
ずっと知りたいと思っていた、尚のこと。けれど、実際に事実を目の前にして、あたし達はそれに答えられるほどの力を持ち合わせていないのだ。
「……ごめん、ヒサ。返す言葉が、見当たらないよ」
千秋が苦々しく漏らすのに、尚は柔らかな声音で「いいよ」と言った。
「そんなモノは、千秋にも真知にも求めてないから」
「何よ、それ。じゃあ、なんで」
見放されたような気持ちになる。
思わず、持っていた缶コーヒーをぎゅっと握り締めていた。
何も出来ない。それがとても悔しかった。だって、あたしや千秋は、何度も何度も、尚の見えにくい優しさに助けられてきたのだから。
そんな気持ちでさえ、尚は全部お見通しなのだ。
ふっ、と綺麗な笑みを浮かべる。