憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
ふと、尚が顔を上げて、真っ直ぐ視線を先にやる。あたしと千秋もそれにつられた。
「尚」
細身のスーツを綺麗に着こなし、手を上げて歩いてくるのは、先程病室にいた尚と結衣ちゃんのお父さんだ。
ゆっくりと立ち上がる。
「美香子が、すまなかったな。どうせ結衣が我儘を言ったんだろうに」
「いえ。こちらこそ、結衣のこと、すぐに連絡出来なくてすみません。美香子さんが怒るのも当然です」
静かな声音と、申し訳なさそうな表情を浮かべて淡々と言葉を述べる。
全ての感情が、その整った顔のしたにきつく押し込められていて、一切の淀みもない。
「それより、いいんですか?仕事、抜け出してきたのでは」
「そうだな。さすがにそろそろ戻らないとまたどやされる。君達も、どうもありがとう。よければまた、結衣に会いに来てやってくれないか。こんな生活だとなかなか友達も出来ないみたいでね」
「も、勿論です」