憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「もしもし、真知ですが」

「あ、真知!久し振り!私、結衣。こないだ、真知のママから電話番号を聞いてたんだ。ビックリした?」

「そ、そりゃビックリだよ。大丈夫なの!?こないだ、倒れたって知ったときは驚いたんだからね」

「ごめん、ごめん。大丈夫だよォ」

結衣ちゃんは、まるでウエハースのように軽い口調でそう言った。

「今ね、誠東に来てるの。真知、これから会えない?実は、ちょっと話したいことがあるんだよね」

「いいよ。ていうか、結衣ちゃん、今ひとりなの!?病み上がりでしょう!」

「まあね。でも大丈夫だから」

数日前に倒れたばかりだというのに、あっけらかんとした調子だ。どうせまた、ご両親の目を盗んで出て来たに違いない。慌てて、駅前にあるファミレスを指定して、クーラーの効いた場所で待つよう伝える。

原付を飛ばして5分で、店が見えてくる。
夏休みだということもあって、そこには結衣ちゃんと同じくらいの高校生達が、楽しそうにお喋りをしながら時間を潰していた。

そんな中でも、一際目立つ女の子。

「結衣ちゃん」

声を掛ければ、思いのほか顔色の良い結衣ちゃんが、にっこりと笑顔を浮かべながら手を振った。
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