憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
ハッとする。
尚と出会ったのは今年の春。大学二年に上がったときだった。
更夜先輩は、尚が一年目という異例のタイミングでアメリカの姉妹校に交換留学をしていたと言っていた。
おそらく結衣ちゃんの父親の力が働いたに違いない。
―尚の一年間は、結衣ちゃんのためだったんだ。
「親も、葉山章吾の名前目当てにハイエナみたいに周りを取り巻くともだちも最低。身体は思うとおりに動かなくて苛々するし。それでもね、尚だけは違うんだ。ただ傍にいて、私を心配してくれる」
淡々と、まるで独り言みたいに結衣ちゃんは言う。
尚を見つめる結衣ちゃんの瞳に、時折特別な感情が浮かぶのに気づいていた。
「私は、お兄ちゃんとしてじゃなく、尚が好きなの」
そうか、やっぱりそうだったんだ。
けれどあたしには、結衣ちゃんのその特別な想いが、なんだか必然だったようにすら思えるのだ。
「真知は、気持ち悪いと思う?私のこと」
「……そんなこと、絶対にない!」