憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

慌てて首を横に振った。
気持ち悪いだなんて、微塵も思っていない。それがどんなに真剣な想いかなんて、結衣ちゃんの姿を見ていれば誰にだってわかる。

「ふふふ、ありがと。でもね、普通は気持ち悪いことなんだよ」

「どうして、」

「……だって、尚は受け入れてくれなかったもん!!」

ずっと押さえていた感情が破裂したかのように、結衣ちゃんが声を上げた。
店内にいる人達が一斉にこちらを振り返った。

「わ、私が、私が好きだって言った途端に、尚は傍にいてくれなくなった!」

「結衣ちゃん、落ち着いて……!」

今にも泣き出してしまいそうな結衣ちゃんを必死で宥める。
興奮のあまり、雪のように白い肌が、ほんのり赤く染まっていた。

ふと頭をある考えが過ぎ、どきりと心臓が嫌な音をたてる。

『いい?真知。結衣に何を言われても、俺の彼女は真知だ。嘘を吐くことに罪悪感なんて覚える必要はないから』

結衣ちゃんが初めてうちに泊まった日、尚に呼び出されたときに言われた言葉。
普段鈍いくせに、どうしてこういうときだけ妙な勘が働くのだろう。

戸惑いは隠しきれない。
結衣ちゃんはあたしを見て、くすりと笑った。
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