憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「尚と私、母親が違うって尚から聞いた?」
「……うん」
「尚のお母さんってね、凄く綺麗な人なの。一度だけパパの書斎で、分厚い辞書にこっそり挟んであった写真を見たことがある。誰かなんて、聞かなくても分かったよ、だって、尚にソックリなんだもの。うちのママはね、元々資産家の娘なの。生粋のお嬢様。立ち上げたばかりの勢いだけが全てだったパパの会社の拍付けの為に、ママは利用されたものなのに。理解してても認めようとはしない。結局、パパに忘れられない恋人がいることよりもそっちにプライドが傷つけられたのね」
抑揚もなく、17歳の女の子が口にするにはあまりにも重たい現実だ。
「ママは、いつだって私と尚を比べる。それでも結局、私が勝てるところなんてひとつも見つからないの。だって尚は完璧だから。その度に、ママは絶望して、余計に尚を嫌いになる」
なんてことないように話し続ける結衣ちゃんの姿は、とても悲しかった。
そっと手を伸ばして、結衣ちゃんの華奢な肩を撫でた。一瞬、びくりと身体を揺らすも、されるがままになる。
「本当はずっと、尚を恨んでた。見た事もない"きょうだい"と比べられて、ママに落胆されて、もし会えた時には絶対殺してやるって。ずっと……、でも……」