憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
嗚咽が漏れる。
彼女に触れている手から、小さな振動が伝わった。
「ねえ、真知。信じられる?そんな風に、ずっと、大嫌いで、憎んでいたのに。尚に会った瞬間にね、光だと思った。綺麗で、どこまでも綺麗で、本当に……特別な人だと思ったの」
ずっと、押し殺していた悲しみを思い出したように、結衣ちゃんは静かに泣いた。
「尚は、ずるい。私の欲しいもの、ぜんぶ持ってる。だったら、いいじゃない。ひとつくらい我侭聞いてくれたって。傍にいて、あたしだけ大切にしてくれるくらい、いいと思うでしょ。ねえ、真知……、そう思うでしょう」
"お願いだから、尚をちょうだい"
消え入ってしまいそうな声で、結衣ちゃんはそう言った。
誰も信じられない、痛くて苦しい日常に、尚が現れたんだ。
それは、どんなに綺麗な光だったんだろう。
思わず、結衣ちゃんの肩から手を離した。偽りの恋人を演じている自分が、酷く汚いものであるように感じたのだ。
―このままで、良いはずがない。
結衣ちゃんをみながら、そう思った。