憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

***

結衣ちゃんの告白を聞いてからの数日間、あたしは常に頭のどこかで尚のことを考えていた。
三人で病院へ行って以来、彼には会っていなかった。

「……はぁ」

何度目かの溜息をついたその時だった。
携帯のランプがふわりと光って、バイブが鳴る。表示された名前をみて、慌てて通話ボタンを押した。

「も、もしもし!」

『……久し振り。どうしたの、そんなに慌てて。真知、今少し平気?』

「うん、大丈夫」

―尚だ。

少し低くて、落ち着いた声音。
ほんの何日か聞いていないだけなのに、どうしてか、その声は無性にあたしの心を揺らした。

「どうしたの、何かあった?」

連絡不精で、世間話をするために電話なんてして来たことがない尚に、自然とそう尋ねる。すると、受話器の向こうで一瞬だけ息を呑む音がした。

『明日、会える?』

「えっ!う、うん」

あたし、どもりすぎ。
尚から改まった誘いを受けるなんて初めてに近いから(雑用ではしょっちゅう呼び出されるけど……)軽く慌てふためきつつ、頷いた。
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