憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
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結衣ちゃんの告白を聞いてからの数日間、あたしは常に頭のどこかで尚のことを考えていた。
三人で病院へ行って以来、彼には会っていなかった。
「……はぁ」
何度目かの溜息をついたその時だった。
携帯のランプがふわりと光って、バイブが鳴る。表示された名前をみて、慌てて通話ボタンを押した。
「も、もしもし!」
『……久し振り。どうしたの、そんなに慌てて。真知、今少し平気?』
「うん、大丈夫」
―尚だ。
少し低くて、落ち着いた声音。
ほんの何日か聞いていないだけなのに、どうしてか、その声は無性にあたしの心を揺らした。
「どうしたの、何かあった?」
連絡不精で、世間話をするために電話なんてして来たことがない尚に、自然とそう尋ねる。すると、受話器の向こうで一瞬だけ息を呑む音がした。
『明日、会える?』
「えっ!う、うん」
あたし、どもりすぎ。
尚から改まった誘いを受けるなんて初めてに近いから(雑用ではしょっちゅう呼び出されるけど……)軽く慌てふためきつつ、頷いた。