憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「尚、どうしてるかなって思ってた。ちょうどね、あたしも尚に話さなきゃいけないことがあるんだ」
『…そう。じゃあ、明日聞かせて。13時にバイクで迎えに行くから』
「わかった。それじゃあ、また明日ね」
『うん』
電話を切った後に通話記録を見れば、たったの3分28秒だった。
こんなにも短時間なのに、あたし酷く疲れた心地でベッドへと身体を投げ出した。
心臓が、痛い。
話をしなければ。
ずっと曖昧な気持ちで、不確かな距離で、尚と接していたけれど、そろそろきちんと向き合わなければならない時が来た。
身体が震えて、思わず傍にあったブランケットを抱え込む。
『私は、お兄ちゃんとしてじゃなく、尚が好きなの』
結衣ちゃんの真剣な瞳が脳裏から離れない。
あたしのしていることは、結衣ちゃんの気持ちを最悪な形で裏切っているのに等しい。
彼女が望むことは、たったひとつだけだというのに。
小さな世界に灯る唯一の光を、あたしなんかが奪い汚していいはずがないのだ。