憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
急にそんなこと聞かれたって、咄嗟に思い浮かぶはずもなく、そっと眉を寄せた。
尚は、"そうだな、"と呟きながらジッとあたしを見つめる。
視線が頭のてっ辺から爪先までをなぞり、小さく頷く。
「……な、な、何?」
「まあ、その格好なら大丈夫か」
ボーダーのTシャツに、クロップドパンツ。
行き先は告げないまま、あたしが後ろに跨ったのを確認してアクセルを吹かす。身体にかかる振動に驚いて、慌てて尚にしがみついた。
熱風の中を走る。
誠東からどんどん離れ、1時間走ったところで一度休憩をとり、さらに1時間行ったころには青空を遮る建物は何もなくなった。
山々は緑が茂る。
ヘルメット越しに、「あとどのくらい?」そう、大声で問いかけた。
「もう着くよ」
尚の声と共に、長いトンネルを抜けた。
夏休みだというのに二車線の道路には他の車は殆ど走っておらず、エンジンの振動と風を切っていく音だけがある。
海岸線沿いを暫らく走り、適当な場所を見つけて緩やかにスピードを落とした。あたしと尚はバイクから降りてヘルメットを外す。