憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「客か。随分久し振りだな…」
感慨深げにそう呟き、ゆっくりとした動作でレジを打ち、商品をビニール袋に入れて手渡した。
「お姉さんは、どこか行く途中なのかい?こんな辺鄙な場所に良く辿りつけたね」
「いえ、すぐそこの砂浜に遊びにきていて」
言えば、酷く驚いた様子で眼を丸くして彼はあたしを見つめた。
なんだっていうんだろう。
「もしかして、尚坊ちゃんも一緒なのかい?」
「ええ、はい。あの、大学の友人で」
いつの間にか身を乗り出して興味津々の様子の店員にたじろぎつつも、しどろもどろに説明をする。
店員は、にんまりと含み笑いをしながらあたしをじっと見つめる。
「……あの尚坊が、ただの友人をこの場所まで連れてくることなんてねえだろうに。へえ、あの子が恋人をね。嬉しいもんだ」
「尚のこと、ご存知なんですね」