憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「ああ、勿論。といっても、きっと坊ちゃんは俺のことなんざ知らないだろうがね。何せ、葉山グループオーナーのご子息さんだぜ。この店だって、寂れちゃいるが一応はグループ傘下でもあるしな」
「……そうだったんですか」
「リゾート計画が破綻になった後の残骸みたいなもんだが。元気でやっているのか?尚坊も、それに、結衣お嬢さまも」
店員がおもむろに出した名前に、ぎくりと身体が強張る。
「二人とも、良い子だよ。気取ったところもないし、少し前まではよく、といっても結衣お嬢さまにせがまれてだろうが、ふたりでこの場所にも来てくれたんだがな。っと、お喋りが過ぎてしまったな。悪いね」
小さく笑いながら手を振る店員に小さく頭を下げて、コンビニを後にした。
真っ直ぐに伸びるアスファルトの一本道。目に沁みるくらい鮮やかなな空と海の青。こんなにも、鮮やかな色に彩られたこの場所で、あたしの心にはどんどんと靄が広がっていくのだ。
"ふたりで"
母親の異なる兄妹が一緒にいることを、結衣ちゃんの母親は酷く嫌っていた。おそらく、両親の目を盗んではこの場所へと訪れていたに違いない。