憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
―どうして、尚はこの場所を選んだの。
ぎゅうっとビニール袋を握り締めて、額に滲む汗をそっと拭った。
海岸沿いを歩いてようやく、砂浜に腰を下ろす尚を見つけた。
後姿だけで、その顔は見えない。
シャツも乾いたのか、きちんと着直していた。
「ひさしー」
「……ああ、遅かったね」
「遅かったね、じゃないよ。すごく遠かったんですけど。それに、お喋りな店員さんがいた」
尚は、記憶を探るように小さく頭を傾げて、何か思い出したように「ああ」と声を漏らしながらコーラの蓋を開ける。ゆっくりと咽喉に流し込み、歩いてくる間にぬるくなってしまったらしいそれに不満気な様子で眉を顰めた。
午後にかけて、だんだんと日が傾くにつれて、木陰が砂浜に伸びはじめる。太陽の光を避けるように、あたしと尚は場所を移動した。
先程コンビニで買った食べ物を広げながら、くだらない話をたくさんする。委員会の話や、尚と出会う前の話、最近やったゲームの話、とにかく頭に浮かぶことを次々に口にした。
尚は、小さく笑いながら、静かに相槌を打つ。