憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

静かに響く潮騒が、とても心地良かった。
必死に、頭を巡らしたものの、これ以上"その時を先延ばしに出来るような話題"が何も思い浮かべることが出来なかった。

深く、息を吐く。


―言わなくちゃ。


「ねえ、ヒサ……」

「真知」

「え!?な……何……?」

尚の声に、思わず声が裏返ってしまった。
黒曜石のような瞳が、ジッとあたしを見つめる。その色はあまりにも深くて、逸らすことなど出来なかった。

尚の腕がのびて、あたしの身体を抱きしめた。

「どうしたの」

「ごめん」

耳元で尚が小さく呟き、ゆっくりとあたしを引き離した。
心臓がばくばくと激しく鼓動している。

尚が次に言おうとしている言葉を、はっきりと予感していた。

その言葉を待つあたしは、いったいどんな顔をしているのだろう。
尚は困った表情を浮かべながら、微笑んだ。
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