憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「契約は破棄するよ」
微笑んだまま、言った。
大きく眼を見開いたまま、あたしは声ひとつ漏らすことが出来なかった。何か言おうとしても、咽喉がヒューヒューと鳴るだけで、まるで声を失ってしまったかのようだ。
動揺しているんだ、あたし。
知っていたくせに。こんなにも。
「……ど、どうして……」
やっと搾り出せた言葉は、とてもチープで、けれど尚はきょとんとして、首を傾げる。
「おかしなことを聞くね、真知も。ずっとこれを望んでいたんじゃないの」
すらすらと、当たり前のようにそんなことを言うのだ。
人の気持ちや行動を読む能力に長けているくせに。