憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
そう、誰よりも人の気持ちに敏感で、だからこそ尚は気づいていたのだ。
あたしがずっと、悩んでいたことに。
結衣ちゃんの尚への思いを知り、罪悪感に苦しんでいたことに。
泣いてしまいそうだ。
あたしは結局向き合うこともせず、また尚がつくってくれた退路から逃げることしか出来ないのだろうか。
「……最後に、教えて、尚」
ゆっくりと尚があたしを見つめる。
その美しい瞳は、夕陽を映しながら僅かに揺れる。
「この契約を結んで、周りの皆に嘘をついた理由。結衣ちゃんの気持ちから逃げるためだったのよね」
「やっぱり、結衣から聞いてたんだ」
「うん。尚も、やっぱり気づいてたのね」
「……真知には、」
「関係ないなんて、もう言わせないから」
すっと尚の瞳から光が消えた。
とても冷たくて、触れることすら躊躇われるほど。
「真知を選んだのは間違いだったね」
「なによ…、それ」