憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
何を考えているのかその横顔からじゃ分からなかった。
元々、尚は表情豊かな方じゃないけど、今は怖いくらいに何の感情も映さない。
「奪うんだよ」
「……奪う?」
尚は、"そう"と小さく呟いて、仕方ないなと肩を竦めてあたしを見た。
「葉山章吾から、全てを奪う」
「父親、なんだよね…」
「血縁上は。周りには息子だなんだって言ったって、結局戸籍上では赤の他人だ」
忌々しげに眉を寄せる尚。心底、父親である葉山章吾のことを嫌っているのがわかる。
「葉山はね、今の地位を得るまでに様々なものを犠牲にしてきた。他人との信頼も、誠意も、全てを踏み台にしてね。俺の母親も結衣の母親も、結局は葉山に騙された人間のひとりだった」
淡々と語る尚の拳は、ぎゅっと握り締められ、爪が食い込んで白くなってしまっている。思わず、その手に自分の手を重ねていた。