憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

「母親と葉山は、所謂幼馴染の関係だったらしい。20年近く傍にいて、それでも最終的には名家との繋がりを選んだ葉山は金と洋館ひとつで母親との関係を絶った。母は、結局その金には一度も手をつけなかったらしいけど」

「……そんな。それじゃ今、お母さんは……」

「元々身体があまり丈夫じゃなかったみたいだね。葉山に黙って俺を生んだ後、すぐ。ねえ、真知……」

尚はあたしを見つめて微笑んだ。

「俺には理解出来ないんだ。どうして、彼女は葉山に人生まるごと奪われて、恨むこともせずにただ黙って受入れたんだろう。憎むべき男の子供を殺すことなく、産もうとしたのは……」

「……っ」

「愛で片付けるにはあまりにも惨いと思わない?」

「もういいよ、尚」

耐え切れずに、そのままぎゅっと尚を抱き締めていた。
真夏だというのに、触れる尚の肌はまるで氷のように冷たかった。

「それでも、葉山はこれからも奪い続ける。利益を得るために、人も企業も一緒くたにして。あの男は、知ったほうが良い。奪われる痛みを」
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