憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
じわりじわりと、太陽が薄暗い海に飲み込まれるように沈む。
そうして広がる漆黒の色は、尚の瞳によく似ていた。
「だから俺も、同じことをしてやろうと思って」
「……同じ、こと?」
「信頼を得て、揺るぎようのない地位をあの男から奪って、葉山章吾を完全に切り捨てる」
そう何度心の中で繰り返したかも分からない決意を、ひとつひとつ確かめるように紡ぐ尚が酷く息苦しそうなのは、気のせいなんかじゃない。
深く足のつかない闇に溺れそうになっている。
「あの用心深い男に信用されるまで、どれだけ時間と労力が必要だったか、真知にはわからないだろ?欠陥のない、優秀で無害な、葉山章吾に利用したいと思わせる人間。内でも外でもそれを演じるのは、面白いものじゃないね」
その計画のために、ずっと演技をしていただなんて。
いつも人から一歩距離を置いていることに、あたしも千秋も勿論気づいていた。けれど、その理由はあまりにも重く痛く、あたしには返す言葉すら見つからなかった。
「結衣が、俺のことを好きだなんて知れたら、もう近づけない。今までしてきたことも全てが無駄になる」