憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

尚は、あたしを家まで送り届けてくれた。
ゆっくりとヘルメットをとり、汗で張り付いた髪をくしゃくしゃと梳いた。

「ありがとう」

はっきりと、尚が呟いた。
あたしはただ小さく頷いて、ゆっくりと尚に背を向ける。

嫌だ、嫌だ、どうして。

あたしが好きだったのは、ずっと千秋だった。
春の日に、いきなり現れた尚に無理矢理結ばされた契約が、ようやく解消されて喜ぶべきはずなのに。

心が痛い。
こんな痛みを、今までで一度も味わったことがない。

「真知」

ぐいと、腕を引かれた。
振り返った瞬間に、唇に冷やりと冷たい感触がぶつかる。

それがキスだと気づいた時には、尚の手はあたしから離れていた。


「……手を出すのは、契約違反でしょう?」

「契約は終わったから問題ないだろ。さようなら、真知」
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