憂鬱なる王子に愛を捧ぐ

秘密を守る必要のなくなった今こそ、千秋には全てを話すときだ。
例え軽蔑されて、嫌われるのだとしても。

嘘をついて欺き続けることなんて、もう出来ない。

何から話そう。
記憶を遡らせれば、瞼の裏に蘇るのは一面の桜だった。

ああ、そうだ。尚と出会ったのは春の日のホーム。千秋が本気の恋をしたことを知り、散々泣き腫らした顔を笑われたのが始まり。

理由を説明されることすらなく強引に契約を結ばされて、その上ファーストキスまで奪われたのだ。
二面性を上手に使い分ける尚の前になす術もなく、頼みの綱であった千秋さえあっという間に彼の虜となった。

はじめは、ただの計算高い嫌な男だと思っていた。
周囲を欺き、自身の都合の良いように振舞っているのだと。

けれど、少しずつ。
一緒に時間を過ごすうちに、普段隠している彼の見えにくい優しさを知った。知らぬ振りをして、あたしを、千秋を、何度も何度も助けてくれた。時に厳しく、けれど決して見捨てることなく。
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