憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「真知って、相変わらず石頭だな。俺の掌のが絶対ダメージでかいわ」
あたしの頭へとチョップをかました手を痛そうにさする。
なによ、それ。ようやく口を開いたと思えば、まるで話なんて聞いていなかったみたいに普段どおりの口調で言う。
「……そういやさ、小学校の頃にもあったよな。真知が逆上がり出来ないって泣きついてきて特訓に付き合ってやってさ。そんで、俺がフォローしてやろうと屈んだ瞬間に、どんなタイミングだか思い切り頭振り上げた真知に頭突きされたんだよ。目の前で星が散ったの初めて見た。血も出たし。大体さ、俺は額3針縫う怪我だったのに、お前は小さなコブひとつってどういうこと。石頭とおりこして、ダイヤモンド頭なんだよな、真知の場合……」
捲くし立てるように一気に話す千秋に、あたしはポカンとしたまま口を挟むことが出来ずにいた。
「聞かない振り、しないでよ」
語尾が震えた。
そんな、小さい頃のどうでもいい話。
すっと影が落ちる。
横に座っていた千秋は、ゆっくりと立ち上がりあたしを見下ろしていた。千秋の顔を見た瞬間、身体の奥がぶるりと震えた。
いつでも感情を乗せてくるくると目まぐるしく変わる表情が、潜められている。そして。