憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「だったら俺は、大丈夫だよ。そりゃ、勿論すげえ驚いたけどさ。でも、真知とヒサは、このままじゃ駄目だ。どうしたいのか、ちゃんと考えないと」
「千秋……、あんた本当、お人好しすぎて不安になる」
見上げれば、千秋はゆっくりと目を細める。
目の縁に滲む雫が、夏の光を孕みきらきらと散る。
ああ、なんて。
ぎゅっとその優しさを抱きしめた。
幼い頃からずっと一緒だった幼馴染。可愛らしかった面立ちは美しさを湛えた大人の男にかわり、同じくらいだった背丈も、いつの間にか20センチも差が出来てしまった。
月日が過ぎると共に、色々なものが変っていくけど。
「ありがとう」
彼が生まれ持ったこの優しさだけは、きっとずっと変らない。ただ、そう信じたい。純粋で、あたたかくて、本当は人一倍傷つきやすいくせに、どこまでもお節介で。
そうだ、あたしは――
千秋の、そういうところが大好きで、何より愛しいと思っていた。
息苦しいほどの感情は温度を変えて、けれどこの先決して消えることなく、優しい光となってあたしの心に揺蕩うのだ。