憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
本当、臆病でどうしようもない。
小さく震える指先が恥ずかしくて、そっと隠した。
「会いに行く。尚に」
―きっと尚は迷惑に思うだろうけど、あたしが会いたいから。
ゆっくりと吐き出すように、言った。
立ち上がり、そのまま自室へと駆け込む。
ボストンバックに、いるのかいらないのかも考えず手につくものを手当たり次第に詰め込んだ。携帯、着替え、タオル、音楽プレーヤー、分けられることなく一緒くたにして、ファスナをしめた。
「おい、真知!ついにキレたわけ?」
「……キレてない。かなり、冷静。尚に会えるまで、張り込む覚悟」
「いやいや、落ち着け!」
あたしの両肩を掴み、ぎゅっと押さえ込もうとする千秋の双眸を真っ直ぐに見上げた。千秋は驚いたように目を見開く。
「行かなきゃ、あたし」
「真知……」
「踏み込まないと、掴めないものもあるね」
昔のあたしだったら、とっくのとうに逃げ出していた。
これでよかったんだ、しょうがない、尚が望んだことだ。そんな風に、誤魔化すように自分の気持ちを偽って。
誰も傷つけないように、いつだって上辺の付き合いばかり繰り返していたくせに。