憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
千秋から荷物を受け取り、換わりに自分が被っていたヘルメットを返す。
「ありがとう」
「いーえ。俺に出来るのは、これくらいしかないし」
にこりと、瞳を柔らかく細めながら千秋が微笑んだ。
頑張れ、真知。そう言ってあたしの肩を叩き、バイクをゆっくりと押しながら背を向けた。
「千秋!」
振り返る薄茶色の髪が、強すぎる夏の光を孕んできらりと揺れた。
寂しいと思った。どうして?自分に問いかけると、その答えはすぐに自分へと返された。
さよならをするからだ。
今度こそ。
ねえ、千秋。
考えもしなかったでしょう。あたしがあんたのこと、ずっとずっと、好きだったことなんて。天邪鬼なあたしは、"好き"の代わりに、酷いことばっかり口にしていたもんね。
15年間ずっとあたしの一部だった恋心。
手を離す日がくるなんて、少し前までは考えもしなかった。