憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
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とんとん。
誰かが、あたしの肩を叩く。ああ、駄目だ、まだ寝ていたい。お願いだから邪魔しないで。
そんなあたしの想いは届かず、半ば揺さ振り起こす勢いで身体を掴まれた。
「んう」
「なにしてるの、こんなところで」
「……なに、って」
ハッとして飛び起きる。驚いてきょろきょろと辺りを見渡せば、そこは尚の部屋の前。しまった、寝てしまったのだ!
恐る恐る見上げれば、案の定、あたしを眠りの底から引っ張りだしたのは紛れもない、尚本人だった。
心底不可解だという表情を浮かべて、あたしを見下ろしている。
手すりの外から覗く空は、太陽などとっくに沈んでいて、代わりに濃紺にちらちらとした鈍い銀の粒が無数に光っていた。
あたしの神経、図太すぎだ。一体、何時間ここで眠ってしまっていたのだろう。
「尚、あの、えーっと、今帰り?」
「そうだけど……、いつからいたの、真知」