憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
尚の問いを曖昧に浮かべた笑みで誤魔化し、ゆくりと立ち上がる。
ずっとしゃがんでいたせいで身体のあちこちが痛い。
そっと尚を盗み見た。
切れ長の怜悧な瞳、日焼けのない滑らかな肌、スッと通った鼻筋、この暑い日でも乱れることのない美貌に、今はどこか疲れたような色を滲ませている。その手には、控えめにつくられた花束が握られていた。
黙ったまま答えないあたしに、尚は呆れた様子で溜息をつき、鍵を開けて部屋に入る。そのまま目の前でドアを閉められそうになり、慌てて身体を割り込ませて左足を突っ込んだ。
「ちょっと、真知」
「は、話があるの」
「俺にはない。悪いけど、疲れてるから」
心底迷惑そうに、きっぱりと拒絶の意を表情に浮かべている。ぎゅっと拳を握り締めて、そっと息を吐いた。
ごめんね、尚。
「ほんの少しだけ。ね、お邪魔します」
精一杯、空気の読めない女になって、大きな荷物ごと尚の部屋へと入り込めば、尚は珍しく表情を隠すことなく、驚きに目を丸くしてあたしを見た。