憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
これ以上の拒絶は無意味だとそうそうに悟ったのか、眉を寄せたままあたしへと背を向けた。おそるおそる靴を脱いで、玄関へと上がる。
相変わらず生活感のない部屋だ。
適当に座って待っていて、と言われたのでお言葉に甘えて黒の皮張りのソファに腰掛ける。
尚は手に持っていた花束をキッチンスペースに置かれたゴミ箱へと乱暴に投げ捨てたあと、タンブラーグラスにアイスティーとレモンの輪切りを用意してあたしへと差し出した。
「ありがとう」
そう御礼を言って、ストローに口をつける。
からんと、氷がグラスにぶつかる涼しげな音に目を細める。そういえば、何も飲まずにずっと外にいたのだ。緊張で気づかなかったけれど、あたしは随分咽喉が渇いていたらしい。
そのまま、こくこくと一気に半分程飲み干した。
ちらりと、あたしの真横に座る尚を窺った。
この距離であると、彼の纏うどこか気だるげな雰囲気がより一層確かに感じられるのだ。一体、何があったんだろう。
「花束、捨てちゃっていいの?」
今日会っていた誰かから貰ったものなのだろうか。
折角の可愛らしい花束を、尚は飾ることなく捨てたのだ。
尚は、ちらりと視線だけを持ち上げて、小さく頷く。
「……毎年、葉山が未練たらしく会いに来ては置いていくんだよ。片付けが面倒だから止めてほしいんだけど」
昔の恋人。尚のお母さんに。
尚は、明らかに苛々した様子で小さく舌打ちをした。