憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「……尚、」
「それ、飲んだら帰ってね」
声を掛けようとした瞬間、尚の言葉に打ち消された。
なまじ顔が整っている分、感情をのせない尚は酷く冷たく感じさせる。
「嫌だ」
「嫌って、真知、お願いだから」
「絶対、嫌。それじゃあ、聞くけど……、尚は、もうあたしじゃない誰かとまた契約をしたの?」
尚は、あたしの質問に少し戸惑った様子で瞳をさ迷わせたあと、ふるふると小さく首を横に振って言う。
「俺が、誰と契約を結ぼうが、真知には関係ないでしょ」
「関係、ないけど。嫌だ」
「真知!」
まるで駄々っ子みたいに、聞き分けのないあたしについに呆れて声を上げた。信じられないという顔であたしを見る。そうだね、だってあたしがここまで尚に追い縋ったのなんて初めてだもの。
他人との間に、一定の境界線を引く尚を知っていた。
千秋は、彼の親友となりたいが故に、時折敢えてその線を踏み越えてやろうとしていたけど、あたしはそれをしようとしなかった。
待っていたんだ。
尚が、こちらにやってきてくれるのをいつだって待っていた。