憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「なんだか、真知らしくないね」
尚が困ったように小さく笑った。
アイスティの入ったグラスをローテーブルに置き、代わりに煙草を一本とライターを手にする。カチ、カチ、とホイールをまわすも小さな火花が散るだけで、一向に火はつかない。
カチ、カチ、と何度も同じ動作を繰り返す指先は、小刻みに震えていた。
「……尚、」
「駄目だな、色々と」
自嘲気味に笑って、キャップを閉じた。
気まずげに席を立とうとした瞬間、ぐらりと揺れた尚の身体を慌てて腕を引いてソファに座らせた。よくよく間近で見れば、尚の目元にはくっきりと隈が浮かんでいる。
「ああ、ごめん。最近、寝不足で」
疲労感を漂わせる尚は、気怠げにこすりながらふわりと欠伸をした。
どうしたの?何があったの?そう当然のように聞くための関係性を、今のあたしには見つけられなかった。伸ばしかけた手を、ぎゅっと拳を握り締めることで留まらせた。