憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
勢いのままに、尚に詰め寄る。
僅かに伝わってくる彼の体温や香りに、心臓がぎゅっと締め付けられた。
「えっと、ごめん」
「謝ってすむと思ってるの?責任、とってよ」
弱っているせいか、戸惑いを見せる尚の胸倉を思い切り掴んで引き寄せる。心臓が早鐘みたく打ち鳴っている。身体が、心が、抑えきれない感情に耐え切れなくて、小刻みに震える。
見開かれた黒曜石の瞳に、馬鹿みたいに強張った表情をしたあたしがくっきりと映っていた。目を瞑ることも忘れて、ぐっと距離を詰める。
「……っふ」
キスを奪った。
いや、キス、なんて呼んでいいようなものじゃないかもしれない。無理矢理に押し付けただけの唇。
「あたし、さっきから尚に嫌がられるようなことばっかり、してるね」
パーソナルスペースにずかずか踏み込んで、帰れと言われているのに無理矢理居座り、あまつキスまでするなんて。
鬱陶しいと罵られるかな。無理矢理部屋から追い出されるかも。
「それでも、もう、あたしはちゃんと尚に向き合わないで、何もせずにさよならしたくないから」
「どうして?」
尚は、静かに首を傾げた。
―ああ、もう。