憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
その言葉に、無言のままこくりと頷いた。緊張しすぎて、なんだか変な汗出てきた。
―これ、現実?夢なんかじゃ、ないんだよね?
「きちんと言う。俺は、真知が好き」
「嘘」
「そんなものついてどうするんだよ」
「だって」
頑なに尚から逃れていた視線を合わせれば、たったいま告白をしたとは思えないくらいに無表情の尚がいた。
心臓が早鐘を打つように鼓動している。
視線が泳いでしまい、真っ直ぐに尚を見れないでいれば、あたしの頬に寄せられていた手によって無理矢理顔を上げされられた。尚の、透き通った漆黒に、熱に浮かされたようなカオをした自分がいた。
「不思議だよね。初めは、真知のそういう、すぐ感情が表に出るとこ苛々するだけだったのに」
「……この場面で、結構酷いこと言うよね」
「仕方ないでしょ、本当のことだ。うるさくて、鬱陶しくて、直情的で、基本的に後先考えないし」
尚はゆっくりとあたしから離れて、この家に入った瞬間にゴミ箱へと投げ捨てた花束を取り上げる。硝子扉の奥から大ぶりなグラスを出し、花弁についた埃を手で払いながらそっと活けた。