憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
「人のために、自分が傷つくのも厭わない。真知も、それに千秋だって、もっと要領良く動けよって、何度も思ってた。けれど……やっぱり、羨ましかった。これまで、俺が必死につくりあげてきたものがちっぽけでくだらないものに見えて仕方なくて。それでも、今更全てを投げ捨ててやり直すには、時間が経ちすぎた」
吐き捨てた言葉は、紛れもなく尚の本音だ。他人の前で浮かべる微笑みでも、普段の素っ気ない態度でもない、これまで固く蓋をしていた感情が焼き尽くすような熱を帯びて心に火傷を負わす。
先ほどの無表情が嘘のように、眉を寄せ、ぎゅうっと口を引き結ぶ尚は、滲む出す痛みを必死に耐えているかのようだった。
「……尚」
伏せていた瞳がゆっくりと持ち上がり、その漆黒の瞳にあたしがくっきりとうつり込む。
ああ、やっぱり。
孤高であろうとするがゆえに、なにより寂しくて、とても綺麗だ。
「ひとりきりになんて、させないから」
「どうして」
「どうして、なんて、くだらない質問だわ」